GALLERY TOMO

2021.9.02

篠原 猛史 『月行観天望気論』Moon of weather lone.

篠原 猛史 『月行観天望気論』Moon of weather lone.

2021年10月22日~31日
13時~19時
最終日17:00迄
月火休

「月行観天望気論」

風、火、風、音などの自然界に見られるさまざまな要素によって特徴づけられる篠原の作品群は、作者の思いを鑑賞者に対して一方的に提示するものではなく、特別な仕掛けを用いるわけでもなく、鑑賞者が作品と向き合うことで明らかになる。
作品という現象のなかに興味深く入り込み、アーティストと共感(エンパシー)を得ることで、我々は却って「見る」という行為を純粋に楽しみ、感覚を解きほぐしながら環境の中に新しい発見や体験をする機会を得ることができる。作品はきっかけに過ぎない。

篠原の今回の制作の動機は「月」。つまり重力から解放されることだという。
月はいずれの時代に於いても、ほぼすべての人にとって最も身近で、最も目にしてきた天体だろう。

フランク・シナトラが” Fly me to the Moon”を歌った時代にこの世に生を受けた篠原。私はその子供世代であるが、篠原も私も共通して不可逆的に流れる時間の流れに身を委ね生きている。芸術概念を拡大し、社会彫刻と呼ばれる活動をしたヨーゼフ・ボイスに師事した篠原は、自らの制作活動が、社会と自然、芸術の相互間で循環しつつ昇華されていくことを大切にしてきた。

今回のテーマは、地上とは異なるであろう物の見え方を可視化する試みとなる。
月は遠く離れているにもかかわらず多くの人の視界に存在するが、もっと近い人々を見ることは難しい。大気に影響されない月面においては光の屈折率や隠蔽率、透過具合、そして重力など地上とは異なるだろう。
うさぎが光と影の間に体が存在している様、蛇口が蛇口ではなくなるだろう役割の変換等、地上とは異なる見え方や形の提示をすることによって、様々な示唆をもたらすものだ。

天体が大きくなればなるほど中心から離れてしまい、離れれば離れるほど重圧も少なくなる重力の特性とは、日常を生きる我々にとって何を意味するのだろうか。重力とは時空の歪みのことだが、何にでも影響を及ぼしている。文字通り時間にも。

詩人ボードレールは時間の制約について退屈で苦しいと述べている。時間が命を食らっていると。篠原も似たようなストレスを味わっていると述べる。
時間とは私たちを強制的に過去から未来へ連れ去る、一方通行の流れだ。米ソが月を目指し、映画2001年宇宙の旅が制作され、東西冷戦の影響は色濃く技術革新が進む時代を経て、1980年代の終わりにベルリンの壁崩壊を直接目にした篠原。そしてイデオロギーの支配からの離脱を象徴するソ連崩壊。歴史は容赦なく未来へ流れゆく。
そうした社会の変容をまさに肌身に感じつつ目撃してきた篠原が、哲学と科学のはざまで、重力の束縛から離れ、自由(理論的にも)であることで生まれた作品群が今回の展示内容となっている。

篠原は東京大学においても授業、ワークショップ形式の講座を開いている。触発と創造の為の芸術ワークショップと題したもので、この講座は学生だけでなく社会人も参加できる。さまざまな立場の人々が参加する中、作品を介して内と外を隔てることなく水平的に作品を通じて人々の思考の幅を刺激する、アートの社会的機能を示すものである。
また、京都ではRESI STAY弘庵別邸という部屋が4つあるホテルの客室に篠原の作品が常設されている。こちらも機会があれば是非ご覧になってほしい。

GALLERY TOMO
青山 知相
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篠原猛史
アーティストホームページ
https://www.takeshishinohara.com/